Nestle NutritionEnhancing the quality of life ネスレ日本株式会社 ネスレニュートリションカンパニー

ホーム > 栄養に関する情報 > 褥瘡(床ずれ)患者の栄養プランの基礎

栄養に関する情報

褥瘡(床ずれ)患者の栄養プランの基礎

監修:美濃良夫先生
阪和第一泉北病院副院長

美濃良夫
目次
  1. 危険率を高めるアルブミン値の低下
  1. 栄養状態のアセスメント
  2. 栄養所要量の算定<ステップ1>

全身の栄養状態の改善は、褥瘡治療には欠かせない要因であるにもかかわらず、「褥瘡と栄養」に関する具体的な指標が少ないのが現状です。

褥瘡対策に関する診療計画書でも、「危険因子の評価」の中に「栄養状態低下」、「看護計画」の中に「栄養状態改善」が規定されています。このセミナーでは、ナースがいま最も知りたい情報の1つである「栄養」をめぐる具体的指針について、すぐ役立つ情報が網羅されました。その一部を紹介します。

監修:美濃良夫みの・よしお先生
みの・よしお
大阪医科大学卒業後、奈良県立医科大学第三内科を経て、大阪大学医学部第四内科に所属。1993年、阪和住吉総合病院副院長。'95年以後、阪和泉北病院副院長、阪和第二泉北病院副院長、阪和第一泉北病院院長代理、医療法人錦秀会理事を経て、現職。日本褥瘡学会理事。'97年、厚生省褥瘡治療指針策定研究班。
1.危険率を高める 血清アルブミン値の低下
1) 血清アルブミン値と褥瘡の相対危険率

私は、寝たきり高齢者の褥瘡の危険因子について、1年間の前向き無作為調査を行いました。

その結果、2つの独立した因子が出てきました。1つは自力の体位変換に何らかの障害がある場合。もう1つは血清アルブミン(Alb)値が正常以下になった場合に、褥瘡の発生リスクが非常に大きくなるということです。

寝たきりであっても自力体位変換ができて、血清Alb値が正常である時の褥瘡の相対危険率を1とすると、体位変換能力に障害がある場合は、血清のAlb値が正常であっても5.9倍の相対危険率となります。また、自力体位変換に障害がなくても、血清Alb値が低下すると、褥瘡の相対危険率は4.9と約5倍に上昇します。

さらに、いくつかのモデルをつくって解析を進めました。

年齢、性別、糖尿病の有無、ブレーデンスケールの知覚の認知、湿潤、活動性、栄養、摩擦とズレの各スコア、血清総コレステロール値、総リンパ球数、ヘモグロビン値を適合させたモデルの中で、可動性のスコアと血清Alb値を見ると、血清Alb値が10g/L、すなわち1g/dL低下すると、褥瘡の相対危険率は3.11倍に上昇します。

また、同じく年齢、性別、糖尿病の有無、排泄、坐位保持、経口摂取、起坐の各能力、血清総コレステロール値、総リンパ球数、ヘモグロビン値を適合させて、ベッド上での体位変換が不可能か可能か、血清Alb値について見ると、血清Albが1g/dL低下すると褥瘡の発生率は2.3倍に上昇します。

このように、アルブミンが低下すると、褥瘡の発生する危険性は非常に高くなることがわかりました。

▲このページのトップへ

2) アルブミン欠乏によって起こってくること

ただし、血清Alb値が低下しなくても褥瘡は発生します。しかし、血清Alb値の低いグループは、褥瘡のない人の比率が非常に低くなります。また、発生前からの血清Alb値の経過を追いかけると、特に深い褥瘡の場合には、発生時に血清Alb値の低下が認められます。 アルブミンは肝臓で合成され、血液の中に約40%、筋肉、内臓、皮膚に約60%存在します。この血液の中のAlbが低下すると、筋肉、内臓、皮膚にプールされたAlbが血清値を補正するために、どんどん放出されます。ですから、Albの欠乏によって最初に障害が起こってくるのは、筋肉、内臓、皮膚です。これが組織の耐久性を低下させると思われます。 昨年度の第4回日本褥瘡学会学術集会でも発表されたように、低栄養の指標としてエビデンスが明らかに認められているものは、血清Alb値だけです。ただ、血清Alb値は栄養の指標としてのみだけではなく、さまざまな疾患によって低アルブミン血症を来たすことがあるので、このあたりの鑑別が必要になってきます。

▲このページのトップへ

3) 褥瘡発生時の栄養状態

褥瘡が発生した時の栄養状態についても、簡単に触れておきましょう。 創傷治癒過程の中で炎症の強い時期に炭水化物が不足すると白血球機能が低下し、蛋白質が不足すると炎症期の遷延が起こります。 また、肉芽形成期に蛋白質、亜鉛が不足すると線維芽細胞の機能の低下が起こります。銅、ビタミンA、ビタミンCが不足すると、コラーゲンの合成機能が低下します。一方、創が収縮する時期にカルシウムが不足するとコラーゲンの架橋結合不全が、ビタミンAの不足ではコラーゲン再構築不全が、亜鉛やビタミンAの不足では上皮形成不全を起こすことが明らかになっています。 このように、創傷治癒段階では、こうした栄養素が非常に重要になってきます。

▲このページのトップへ

栄養状態のアセスメント

AHCPR(米国医療政策研究機関)の褥瘡のガイドラインには、「栄養状態のアセスメントと管理」の項があります。

ここには、「栄養状態のアセスメントは少なくとも3か月に1回行うこと」「栄養補給としては、患者の窒素バランスがプラスになるように、エネルギーは約30~35kcal/kg/日、蛋白質は約1.25から1.5g/kg/日、場合によって2.0g/kg/日が必要なこともある」と記載されています。 また、ビタミンやミネラルの欠乏が確認されたり、疑われたりする場合には、ビタミン剤やミネラル剤を投与することになっています。この指標をこのままわが国で適用していいかも含めて、検討を重ねてきました。

その結果、2段階で褥瘡の栄養管理を行ってはどうかと考え、〈ステップ1〉と〈ステップ2〉に分かれたアルゴリズムを作成しました。進め方は、〈ステップ1〉で栄養のベースを決め、〈ステップ2〉で栄養補給の方法の設定について、個々の患者さんに応じたものを決めていきます。

▲このページのトップへ

栄養所要量の算定

〈ステップ1〉は、栄養所要量の算定方法です(表1)。所要エネルギー、蛋白質、亜鉛、カルシウム、鉄、ビタミンA、ビタミンCなど、褥瘡の予防、ならびに創傷治癒に重要な項目を挙げ、「褥瘡がない状態」「褥瘡がある状態」の2つに分けました。

表1 栄養所要量の算定 ●条件:日常生活の自立度「B1」以下(準寝たきり、および寝たきり)
  褥瘡なし 褥瘡あり*5
D、E、S、Iが2項目未満 D、E、S、Iが2項目以上
所要エネルギー
*1
簡易法 25~30kcal/kg/日 30~35 35
BEEを用いた計算 損傷係数1.0 損傷係数
〈表2〉参照
損傷係数
〈表2〉参照
蛋白質 低アルブミン血症あり 1.1~1.3g/kg/日 (標準体重または目標体重あたり) 1.3~1.4
(標準体重または目標体重あたり)
1.4~1.6
(標準体重または目標体重あたり)
低アルブミン血症なし 1.0~1.2g/kg/日 1.2~1.3 1.3~1.5
亜鉛
*2
亜鉛欠乏あり(と思われる) 15~30mg/日 15~ 30 15~ 30
亜鉛欠乏なし(と思われる) 15mg/日 15 15
カルシウム   ≧600mg/日 ≧800 ≧800

*3
  12mg/日 15 15
ビタミンA
*4
  ≧2000IU/日 2000~2500 2000~2500
ビタミンC   ≧100mg/日 150~500 150~500
  • *1 「るい痩あり」の場合は、実体重ではなく、標準体重または理想体重を用いるため、エネルギー量が補正される
  • *2 亜鉛補給のための薬剤はわが国にはなく、アイソカル®・ジェリーPCF、亜鉛を補強した半消化態栄養食品(剤)、治療用食品を利 用する
  • *3 ヘモグロビン値が11g/dL以下にならないように注意する。11g/dL以下の場合には、食品あるいは薬剤にて貧血の治療を行う
  • *4 低栄養状態以外では、一般にビタミンAの不足は少ない
  • *5 褥瘡ありの場合は、まず「D、E、S、I」に注目する。次に「G、N」に注目する

さらに、「褥瘡がある状態」は、日本褥瘡学会が提唱している「DESIGN」のD、E、S、Iを使って重症と軽症に分けています。そして、それぞれについて栄養所要量を示しています。

ここで大切なことは、るい痩がある場合には、実測の体重を用いるのではなく、標準体重あるいは理想体重を用いることです。エネルギーもこれにより補正されます。

なお、必要エネルギーの算定方法については、2つを設定しました。「基礎エネルギー消費量からの算定方法」と「簡易計算式による算定方法」です。

▲このページのトップへ

1) 基礎エネルギー消費量からの算定方法

必要エネルギーは、以下の式から求められます。

必要エネルギー量(kcal/日)=基礎エネルギー量(BEE)×活動係数×損傷(ストレス)係数

それぞれの項目の詳しい内容は表2に示しました。

表2 必要エネルギー量の算定
●必要エネルギー量
1日に必要なエネルギー量は、年齢、体重、身長、全身状態、疾病、活動量などにより大きく異なる。
●必要エネルギー量の算定方法
(1)基礎エネルギー消費量(BEE)よりの算定法

必要エネルギー量(kcal/日)= BEE×活動係数×損傷(ストレス)係数


(BEE:basic energy expenditure 基礎エネルギー消費量)
a)基礎エネルギー消費量(BEE)の算出
(Harris-Benedictの式)
男性:66.47+13.75W+5.0H-6.76A
女性:655.1+9.56W+1.85H-4.68A
(W:体重kg、H:身長cm、A:年齢years)
b)活動係数
寝たきり=1.2
歩行可能=1.3
c)損傷(ストレス)係数
(ストレス係数:各病態や状態により定められている、 1.0~2.0の係数)
  • 「褥瘡なし」の場合の損傷係数 1.0
  • 「Ⅰ度」「Ⅱ度」の褥瘡の損傷係数 1.1
  • 「Ⅲ度」の褥瘡の損傷係数 1.2
  • 「Ⅳ度」の褥瘡の損傷係数 1.3 と定める
d)損傷(ストレス)係数の補正
褥瘡の合計面積が患者の手掌の何倍になるかを求め(手掌面積は体表面積の約1/100)、小数点1位以下の数字は切り捨てる。
求めた数値を1/100倍して損傷係数に加える
例1)寝たきり状態で、患者の手掌の面積の約半分の大きさのⅢ度の褥瘡の場合
必要エネルギー量=BEE×1.2×(1.2+0)
例2)寝たきり状態で、患者の手掌の面積の2.5倍のⅣ度の褥瘡の場合
必要エネルギー量=BEE×1.2×(1.3+0.02)
(2)簡易計算式

必要エネルギー量= 25~35(kcal/kg)×体重(kg)

  • 褥瘡なしのとき 25~30kcal/kg
  • 「DESIGN」の項目の「D、E、S、I」のうち重症  (大文字)が2項目未満  30~35kcal/kg
  • 「DESIGN」の項目の「D、E、S、I」のうち重症  (大文字)が2項目以上     35kcal/kg
(1)(2)の計算法にかかわらず、体重は実測体重を用いるが、80%以下の痩せ、または120%以上の肥満の場合は、標準体重または目標体重を用いる
標準体重=(身長m)2×22
(1)(2)の計算法にかかわらず、るい痩がある時は、低アルブミン血症、亜鉛欠乏の値を採用する

基礎エネルギーの算出方法はハリス・ベネディクトの式があります。これに実際の体重、身長、年齢を当てはめれば基礎エネルギー量が算定できます。さらに活動係数として、一般的には寝たきりの場合には1.2、歩行可能の場合には1.3の係数をかけます。

次にストレス係数ですが、褥瘡に対するストレス係数は設定されていません。そこで私たちは、他の疾患のストレス係数その他を調査して、ストレス係数を定めてみました。

「褥瘡なし」の場合の損傷係数は1.0、Ⅰ度とⅡ度の褥瘡の損傷係数を1.1、Ⅲ度の褥瘡の損傷係数を1.2、Ⅳ度の褥瘡の損傷係数を1.3としました。

そして、褥瘡の大きさによってエネルギーが変わってくるので、さらに補正として褥瘡の合計面積が患者の手掌の何倍になるかを求め、この小数点1以下の数字を切り捨てて、その数字を100分の1倍して損傷係数に加えることにしました。手掌面積は体表面積の約100分の1です。

▲このページのトップへ

2) 簡易計算式からの算定方法

簡易計算式は以下のようなものです。

必要エネルギー量=25~35(kcal/kg)×体重(kg)

この中で、褥瘡なしのときには25~30kcal/kgを使います。

「DESIGN」のD、E、S、Iのうち大文字が2項目未満の場合には30~35kcal/kg、大文字が2項目以上の場合には、35kcal/kgの投与を行います。

これによって、先ほどのハリス・ベネディクトの式から求めたものとほぼ同様の数字が出ます。

これらの計算方法にかかわらず、体重は実測体重を用いますが、80%以下の痩せ、または120%以上の肥満の場合には、標準体重または目標体重を用います。そして、るい痩ありのときには低アルブミン血症、亜鉛欠乏の値を用いることにしました。

▲このページのトップへ

3) 必要水分量の設定

栄養管理においてもう1つ重要なのが、必要水分量です。これは、以下の式で求めることにしました。

必要水分量(mL/日)=年齢別必要量(mL)×実測体重(kg)

実際には褥瘡の発生しやすい年齢をピックアップしていますが、25~55歳の場合には35mL/kg/日、55~65歳の場合には30mL/kg/日、65歳以上の場合には25mL/kg/日という数値を設定しました。この計算には実測体重を用いますが、るい痩または肥満の場合には、標準体重を用います。

さらに、簡易法として1日の必要エネルギー量と同量の水分を投与する方法があります。すなわち、1700kcalが必要な方に対しては、1日に1700mLの水分が必要であるとする方法です。これは非常に簡易的に求めることができます。

*

栄養補給時にはいくつか注意しなければならないことがあります。例えば、窒素の排泄は肝臓や腎臓に負担をかけるので、腎疾患や肝疾患のある人は、過剰摂取しないように十分に注意を払う必要があります。

また、高蛋白質の有用性も唱えられていますが、予備能力の低下しがちな高齢者には注意が必要です。

疾患によっていろいろな補正が必要になってきます。これらを踏まえたうえで、栄養所要量を検討していただきたいと思います。

▲ページトップへ